高度進行がんと言われたら手術はしない

私はがんで死にたい 小野寺時夫

私は、高度進行がんと分かったら手術は受けません。
私が高齢になったからではなく、外科医現役の50歳代から一貫した考えです。
血気盛んな若い時代は、高度進行がんにも諦めずに手術に挑み続けましたが、経験を重ねるほどにその無益さを認めざるを得なくなったのです。

高度進行がんに対して無理な手術を行っても延命効果はありません。
むしろ、患者さんに多大な苦痛を与え、後遺症で苦しめる結果になっている場合が多いのです。
しかし、日本のガン治療は歴史的にも手術一辺倒の時代を歩んできており、無益で害の多い手術が今日もしばしばみられます。
ホスピスには、大手術を受けてからわずか数か月から半年で、すでに末期状態になった方が次々と来ます。
今日でもこんな手術を積極的に行う医師が少なくないのはなぜでしょうか。

1つは、外科医の手術に対する強い志向性が関係しているでしょう。
手術での緊張感、集中力、やり遂げた時の悦びは外科医でないと味わえないと思います。
簡単な手術に慣れるにしたがって、もっと複雑で困難な手術をしたい欲望にかられます。
消火器外科医であれば、胃や大腸の手術だけでなく、食道がんやすい臓がんの複雑な手術もやってみたくなるのです。

手術は大工仕事に似ています。
単純な手術だけではユニットハウスを手順通りに組み立てる大工さんとあまり変わらず、誇りを持てなくなることも高度な手術に向かわせる要因かもしれません。
「あの先生は手術さえしていればご機嫌な人です」と看護師に噂される医師もいるくらい、困難な手術の達成感が生きがいになっている外科医もいます。
外科医にとって「手術ができません」というのは敗退するような気分であり、周りが「手術適応がない」と反対しても、手術を進めようとする医師もいます。