転移がある場合、放射線治療もやめておきなさい

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

筑紫さんは、転院先では積極的な治療はもうやめて緩和ケアに入ることを勧められたのですが、筑紫さんは放射線治療の再開を望みました。
そして医者は、筑紫さんの希望に応えて、その後の3か月間治療を続けたそうです。

患者さんは、ピンポイントでがんを叩き続ければ、最後にはがんが全部消えるのではないかと思っています。
筑紫さんも。おそらくそう思っていたでしょう。
ところが、そうではないのです。
がんは次から次へと出てきて、いくら叩いてもきりがないのです。
がんを叩き続けても、体が弱るだけで、がんが治ることはありません。

だから僕は、放射線医ではあったのですが、転移がある患者さんには「放射線治療も、やめておきなさい」と言うことがほとんどでした。
患者さんの希望を尊重することは大事ですが、その希望が間違った思い込みをそのままにしておけば、寿命が短くなるという不利益を被るのは患者さん本人なのです。

筑紫さんは、奥さんが勧めても、放射線治療をやめて東京に帰ることに、なかなか同意しなかったそうです。
医者が治療してくれる以上、治る見込みがあると思ったのでしょう。
でも、肺に水がたまるのは肺がん末期で、もう治らないと医者にはわかっています。
いくら本人が治療を望んでも、東京に帰って緩和ケアに徹しなさいと言ってあげるのが、本当だろうと思います。
筑紫さんは、ようやく10月末に東京に帰り、それから11日後に亡くなりました。