モルヒネを痛みが取れるまで充分に投与して

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

しかし、代替医療でがんは治らず、筑紫さんは咳と痛みに悩まされます。
さらに、肺に水がたまり、呼吸するのが一苦労という状態になってしまいました。
そんな時に紹介されたのが、放射線をがんにピンポイントで照射する病院でした。

放射線には痛みを取る効果があります。
骨への痛みなら、10中八九効きます。
痛みが取れると表現する人が6~7割、軽くなると言う人が2~3割です。

ただし、痛みを取るために照射するのは、2,3か所までです。
何か所もがんがある人が、次々に放射線をかけていくと、放射線の害の方が大きくなって、体が弱ってしまうからです。
いくらピンポイントで照射するからといっても、がんに到達するまでの放射線の通り道には害が出ます。
例えば肺ならば、通り道にある正常な細胞が放射線で傷ついて、呼吸困難に陥ってしまうこともあります。
放射線は、手術に比べればましですが、体に優しいわけではないのです。

筑紫さんはモルヒネを投与されていたものの、痛みがかなりひどく、しかも広範囲にあったようです。
おそらく、モルヒネの量が不十分だったからですが、このようなケースで、放射線ですべての痛みを取ろうとするのは無謀です。
モルヒネを痛みが取れるまで十分に投与し、それでも痛みが残るところ、せいぜい2,3か所に放射線をかけるのが本来の治療法です。