覚悟を決めたら

なんとめでたいご臨終 小笠原 文雄 

私は腹をくくり、堀さんの手を握り、しばらく間を取り、尋ねました。
「堀さん、死にたいって言うけれど、この中で一番最初に死ぬのは誰だと思う?」
その場にいたご主人の顔は引きつり、堀さんは目を見開き、息遣いが変わります。

しばらくして、堀さんは私をしっかりと見つめると
「わ・・・私でしょ」
と答えました。
そこで私は
「そうだねえ。ここにいるみんながそう思っているよ。死にたいと言っていると、免疫力が下がって本当に早く死んでしまうからね。お盆まで生きられないよ。でもよく寝て、心と体を暖めて笑うと、3割の人は長生きできるよ。お盆に子どもと旅行も行けるかもしれない」

私は告知の話をするときや大事な話をするとき、患者さんの手を握ります。
手を握り、脈を診て、目を見ながらゆっくり話すと患者さんに気が伝わるのです。
「堀さん、これからは生きることを考えましょうよ。子どもたちも見てますよ」

死ぬという現実を覚悟しないことには前に進めません。
私の言葉で現実を突きつけられた堀さんは、二度と”死にたい”とは言わなくなりました。
それどころか、会いたがらなかった友人にも積極的に会ったり、子どものサッカーを見に行くなど楽しく過ごすようになりました。