生きる希望が考えられないパワーを生み出す

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

7月、堀さんの訪問看護中に遠隔診療を行いました。
「先生、39.3度の高熱が出ちゃったの」
「じゃあ、いつもの点滴をするからね。訪問看護師さんに伝えるから、電話を代わって。午後には、僕も往診に行くからね」
「ううん、先生のお顔が見られたし、先生も疲れちゃうから来なくていいよ。いつもの点滴してもらうから安心して」

末期がんの患者さんが、逆に医師の身体を心配してくれる。
「死にたい!」と言っていた堀さんに、”生きる希望”が芽生えているのを確信しました。
生きる希望を持ち始めると、医学では考えられないパワーを生み出すことがあります。
子どもたちのために少しでも長生きしたいという母親としての強い想いが、堀さんの日常生活動作を向上させていきました。
お盆までは生きられないと言われていた堀さんでしたが、お盆過ぎには子どもたちと1泊旅行に行くこともできたのです。

夏休みが終わり9月になると、堀さんの状態は徐々に悪くなります。
10月中旬になると、」腹水のたまった堀さんは、とうとう歩けなくなりました。
私は以前、堀さんとご主人に「在宅ホスピス緩和ケアは笑顔で長生き、歩けなくなったらピンピンコロリ」と話していたので、歩けなくなった妻を見て、ご主人は覚悟していました。
しかし当の堀さんは、こんなことを言ったのです。