死にたい・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

若くして病気になる。
幼い子どもを遺して旅立つ。
それは、どれほど無念なことでしょうか、2011年5月、堀さん(35歳 女性 胃がん)のご主人が、20キロ離れた小笠原内科に来て言いました。
「先生、妻は2年前に胃がんの手術を受けた病院に通院しています。でも”死にたい、死にたい”というので、精神科の先生に抗うつ剤をもらっています。でも、一向に良くなりません。往診してもらえませんか?」
「それは辛いですね。分かりました。すぐに往診しましょう。でも、少し遠いので、近所のお医者さんと教育的在宅緩和ケアで連携しますね」
私はこう話し、連携する近所の医師と一緒に堀さんの往診に行きました。

「堀さん、こんにちは。小笠原です。夜は眠れていますか?」
「死にたい・・・死にたい」
「どうして死にたいの?」
私が堀さんに尋ねると
「母として何もしてあげられない。死にたい。妻として何もできない・・・」と震える声でいいます。
そこで私がこう励ました。
「堀さん、料理が作れなくとも、おはよう、おやすみって言えるじゃない。傍にいてあげられるじゃない」
「死にたい・・・」
「寝ているだけでも、生きているだけでも、母親の愛情は注げるよ」
「死にたい・・・」

1時間ほど語りかけても、堀さんの返事は「死にたい」の一言だけ。
私は腹をくくり、堀さんの手を握りました。
しばらく間を取り、尋ねました。