肺炎の後は立ち退き

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

いくら入院が嫌だといえ、一人暮らしで”このまま死んでもい”という患者さんに「はい、そうですか」とは言えません。
困った私は辻本さんの甥に連絡を取り、状況を説明しました。
「辻本さんが入院を拒否されています。このままだと肺炎で亡くなる可能性が高いと思います。本人の希望するまま、家で治療を続けてもいいですか。だめなら入院を説得してもらえませんか?」
「叔母は頑固だから説得しても無理ですよ。希望通りにお願いします。もし何かあった場合には、私が責任をもって後のことはやりますから」

甥から承諾を得たので、自宅での治療を続けることにしました。
そこで抗生物質とソル・メドロールをいつもより多めに投与したところ、効果が出て元気になった辻本さん、遊びに来てくれたお友達とおしゃべりを楽しんだり、時には外出するなど、以前より朗らかに過ごしていました。

ところが今度は、辻本さんが住む長屋が壊されることになったのです。
「お友達もいるし、もう何十年も住んでいる今のところから離れたくない」と嫌がる辻本さんに私は、
「市役所の人にもそう伝えて、近くで家を探してもらうように頼むといいよ」と言いました。
辻本さんは生活保護を受給しているので、家賃が3万円以下ということでした。