死んでもかまわん。家にいたい。

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

ある日のことでした。
「咳が出て熱もあり、苦しいから診てほしい」
と連絡があり、往診に行くと辻本さん(82歳 女性 慢性気管支炎)が、とても苦しそうにしていました。
辻本さんは、鼻マスク型人工呼吸器をつけています。
「こうまでして生きねばならないものか。鼻マスク型人工呼吸器なんかつけずに、そのまま死ねばよかった」
そういう辻本さんに私は
「まあまあ、そんなこと言わずに。これは肺炎だから、抗生物質が効けば治るよ。まあ、効かなかったら死んでしまうんだけどね」
と、2時間ほど話をしながら、抗生物質やソル・メドロールの点滴をすると
「こうして楽になると、生かされていることに感謝ですわ」
と少し前向きになった辻本さん。

その後、在宅緩和ケアを継続して1年が経った頃、ひどい肺炎にかかってしまいます。
そこで私が
「さすがに今度の肺炎はひどいし、死にそうだから入院したら?」
と入院を勧めると、辻本さんは
「苦しくなったら入院するけど、このまま死んでもかまわん。家にいたい」
と拒否するのです。