肝臓ガンでも陽気になれるならお酒を飲んでもいいよ

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「えっ、この年金で診てくれるんですか。首吊らなくてもいいんですか?」
「うん、でも1つだけ守ってほしい約束があるからね」
「何ですか? 先生、教えて」
「それはね、良く寝て、心と身体を暖めて、笑うこと。そうすれば免疫力も上がって笑顔で長生き。寝たきりになったら3日で死ぬよ」
「そうなんですかあ。よかったあ。先生、ありがとう」
と安心したのもつかの間
「先生、私やっぱり笑顔になれない」
「なんで?」
「だって病院の先生にお酒飲んではダメって言われているから、大好きなお酒をずっと我慢しているんです。笑顔になんかなれない」
「あ、そうなの。笑顔になれるなら、飲めばいいじゃない」
「だめですよ。私は肝臓がんなんですよ。病院の先生からも、お酒は肝臓に悪いって言われています」
「だけど中田さん。もうすぐ死ぬんでしょ。首を吊るって言ったじゃない?」
「そ、そうだけど・・・」
「どうせ死ぬならいいじゃない。死んだらお酒は飲めないよ。肝臓がんになったお医者さんもお酒を飲んでるよ」
「えっ、本当に飲んでもいいの?」
「大丈夫だよ。それに肝臓がんの人は、ちょっとのお酒で酔えるからお得なんだよ。ところでお酒はどこかにあるの?」
「そ、そこの押し入れに・・・」
押入れを見ると赤ワインが2本ありました。
「たくさんあるねえ。中田さん、これ飲めばいいよ」
「本当ですか? 先生も看護師さんも一緒に飲んでくれる?」
「いいよ。みんなで飲もうよ。乾杯!」
「先生、久しぶりのお酒はおいしい。私はね、根は明るいからお酒を飲むと陽気になれるんです」