お金がないから首を吊るしか・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「隣のおばちゃんが首を吊ろうとしています。先生、すぐに来てください」
ある日のこと、小笠原内科にこんなことを言いに来たおばさんがいました。
驚いて往診すると、中田さん(89歳 女性 肝がん)が部屋で一人座っていました。
私が「どうしたの。なんで首を吊ろうとしているの?」
と尋ねるとこういいます。
「だって、がんになってお金がかかって仕方がないんです。入院したり、高い抗がん剤を使ったりして貯金もなくなったし、首を吊るしかないんです」
「お金がないんだね。痛くはないの?」
「肩もいたいし、腰も痛い。夜も眠れない。だから死ぬの」
「お金がないって言ってたけど、いくら持っているの。貯金通帳見せてくれる?」
「通帳? いいよ」
通帳を見てみると、2か月に一度144,932円の入金がありました。
「これって年金?」と私が訪ねる
「そうです。これで2か月分なんです」と中田さん。
「そうなんだね。毎月3万円出て行っているけど、これは何?」
「家賃です」
「ということは、1か月42,000円で生活しているんだね」
「そんなお金じゃ病院の治療費も払えない。だから死ぬしかないんです」
「死ぬことないよ。このお金で最期まで面倒見てあげる。大丈夫、安心して」
私がこう言うと、中田さんは目を丸くして尋ねました。
「えっ、このお金で診てくれるんですか。首吊らなくてもいいんですか?」