病院の治療とは

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

しかし退院した大野さんは、胸水が大量にたまっています。
胸水がたまると、肺の膨らむ部分が少なくなるので呼吸困難を引き起こします。
胸水の影響で、苦しくて食べられない大野さんは、入院中2000ml.もの高カロリーの輸液を点滴して栄養を補っていました。
大野さんの顔や手足、お腹や背中はむくみでパンパン。
酸素吸入をしても苦しがり、自力で歩くこともできません。
このままでは本当に5日の命です。
そこで私は「高カロリーの点滴を減らすね。そのほうがきっと楽になるからね」
と説明して、2000ml.の高カロリー点滴を400ml.の低カロリー点滴にしました。

病院は患者を健康に戻し、何年も生きられるような治療計画を立てています。
だから1か月で死ぬはずの大野さんにも、健康な人が必要としているカロリーと水分量を投与していたのです。
さらに大野さんは入院中、毎日1200ml.の胸水を抜かれて「これでは水分不足で死んでしまう」と、命がけで1000ml.もの水を飲んでいたそうです。
水分不足どころか、こんなに全身ブクブクで死んだら頓死です。

在宅ホスピス緩和ケアで、水分を5分の1、カロリーを10分の1に減らした結果、大野さんはお腹がすいて、口からご飯が食べられるようになりました。
さらには全身のむくみもなくなり、呼吸が楽になったので笑顔になれたのです。

何より息子と一緒にいられる安心感が、大野さんの心を朗らかにし、何と退院したら5日で元気になったのです。
1か月後には庭で日向ぼっこができるようになり、2か月後には驚くべきことに、畑仕事ができるようになりました。
退院してから4年10か月後、腫瘍マーカーであるCA125の値を測ってみると、在宅ホスピス緩和ケアを開始したころの2040から9に下がり、何と正常値になっていたのです。