生まれたときよりも少しでも良くしてから逝こう

明日この世を去るとしても今日の花に水をあげなさい 樋野興夫

死について考えることは、人生を見つめ直すきっかけになります。
生きている限り、人には使命があります。
問題は寿命の長さではなく、何をしたかです。

人は目的を失ったときに弱くなります。
生きる希望をなくした途端にもろくなります。
心が内に向いてしまい、これまで気にならなかったことが、気になって気になって仕方がなくなります。
うつ的症状に陥った人に希望や目的を取り戻してもらうため、ガン哲学では言葉の処方箋を出しています。

たとえば、「あなたの居場所はどこですか」
「あなたは何のために存在するのですか」
「どうすれば残された人生を充実させられると思いますか」
自分を見失ってしまった人には、こうした人間の尊厳に触れる言葉をかけます。
自分という存在の根本を見つめ直す質問です。

うつ的症状を解消して心を外に向けさせるには、人類の最初にして最後の問いに向き合っていかないといけません。
それが「自分は何のために生まれてきたのか」です。
「ガンになるまで、そんなこと一度も考えたことがなかった」という患者さんが言いました。
「人生と向き合うきっかけは、思いがけない形で与えられるものなのですね」
中には「ガンになってよかった」とまで仰っる方もいらっしゃいます。
「この世の中を私が死ぬときは、私が生まれたときよりも少しなりとも良くしてから逝こうじゃないか」というわけです。