子どもが考える最善の選択は、親にとっては最善ではない

何とめでたいご臨終 小笠原 文雄

ところがその夜、息子さんは小笠原内科には何の連絡もせず、古川さんを入院させてしまったのです。
息子さんは、小笠原先生の話は分かったけど、自分の意見とは違う。
入院させたほうがいいと思ったのでしょう。
古川さんは入院して2日後亡くなりました。
古川さんは、とても気が小さい人だったので”タコツボ症候群”になってしまったのでしょう。

14年間も主治医をしていた私は、古川さんの性格をわかっていました。
あの時、息子さんに納得してもらえるスキルがあれば・・・と後悔するのと同時に、私以上に母親の性格を知っていた息子さんだからこそ、気の弱い母親の一人暮らしを心配したのかもしれないと、胸が張り裂けるような思いがしました。

この事例は、子どもが考える最善の選択が、必ずしも親にとって最善ではないこと、それを大切な人の死をもって気づくのでは遅いということを教えてくれました。

なぜなら、死が迫っていない人には、死ぬ人の気持ちがわからないからです。
自分がもうすぐ死ぬと思っている人は、残りの人生が決まると覚悟したうえで1つ一つの選択をしています。
ご家族の方には、患者さんがそれだけの重みを感じながら選択しているということを、今回の事例を通してわかっていただければと思います。