死を受け入れるトレーニング

寿命が尽きる2年前 久坂部羊

死を受け入れるトレーニングで、一番簡単なのは、自分が手遅れのガンになったと仮定してみることです。
がんの診断を受ければ、治療さえしなければ、だいたい1,2年で死ねます。
ガンにもいい面はあるのです。
それは、無理に長生きをせず、死ぬまでに時間的な余裕があるということです。

どんな死に方がいいかと聞いた時、ポックリ死、または老衰の死と答える人は多いのはないでしょうか。
ポックリ死は、苦しみ無しに死ねると思っているかもしれませんが、心筋梗塞やくも膜下出血は、激烈な痛みを伴います。
くも膜下出血などは、人生最大の痛みといわれますし、心筋梗塞も激しい胸痛と絞扼感があります。
その数分の間に、自分はこれで死ぬのか、もう終わりなのかと、リアルな絶望を突き付けられ、後始末も遺言も必要な処理もできず、残された人に多大な迷惑をかけかねない状況で死ぬのがポックリ死です。

老衰死も、眠るように最期を迎えるなどと、安楽イメージがあるかもしれませんが、老衰で死ぬまでには、恐ろしく長い不自由で不如意でつらい時間を経なければなりません。

そんな死に比べて、ガンなら老化現象で苦しむ前に死ねますし、死ぬまでに動ける時間がありますから、仕事の始末、人間関係や身辺の整理、もう一度食べたいものを食べ、行きたいところに行き、したいことをすることもできます。
そうやって、自分らしい人生のまとめをして、心置きなくこの世をされるのがガンなのです。

もちろん、これは死を受け入れている場合で、生きることに執着している人は、苦しい治療にこだわって、時間を無駄にしたり、自ら余命を縮めたりします。