死は敗北? 病院の裏玄関から出される

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

いつ死ぬかわからないということは、今日という日が旅立ちの日になるかもしれないということです。
今回は、末期がん患者にとっての1日がどれほどの重みがあるのか、それをお伝えしたいと思います。

高木さん(86歳 女性 胃がん)と同居している長男のお嫁さんと、次男のお嫁さんが金曜日の午前に相談外来に来て言いました。
「先生、末期がんの姑が家に帰りたいというので、月曜日に退院させることにしました。急に悪くなって、いつ死ぬのか分かりません。退院したら往診に来てもらえませんか?」
「もちろん往診はするけど、急に悪くなって今にも死にそうなのに、月曜日の退院でいいの? 3日後、生きているの? もしも亡くなったら、病院の裏玄関から出ていくっていうことだよね。そうなったら、あなたたちは後悔しない? 退院させてあげたいあげたいのなら、今日の午後にでも緊急退院できるんだよ」
「えっ、今日退院できるんですか? あ、でもまだ家の掃除が・・・」
「掃除なんて、さっさとすればいいし、しなくてもいいんだから」

そんなやり取りの末に、高木さんは4時間後、表玄関から緊急退院できました。
病院で死ぬと、病院の正面玄関からでなく、裏口から出されます。何故だかわかりますか? 
病院では「死は敗北」忌むべきものだからです。