旅立を選んでいるいのち

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

退院当日の土曜日、訪問診療に行くと、高木さんはうれしそうです。
「よく寝られたよ。うれしいわ」
ところが日曜日、意識がなくなったと連絡を受けた私は、往診に行きました。
「血圧が下がっているから、もう亡くなりそうだね。月曜日まで入院していたら、家に帰れなくなったかもしれないよ。緊急退院させてよかったね」
「おばあちゃんも笑顔だったしよかった」
みんながそう喜んでいました。

ところが火曜日、私が往診に行くと高木さんはまだ生きています。
「あれ、どうしたのかなあ。もう全員集まったんだよね」
と私が聞くと、息子さんが周りを見回して言います。
「そういえば、東京のひ孫が来ていない」
「じゃあ、きっとひ孫を待っているんだね」
そんな話をしていました。
そして水曜日、ひ孫が到着すると、高木さんは穏やかに旅立たれたのです。

延命治療で強制的に生かされている命ではなく、目に見えない命があるとしたら、それは、旅立ちを選んでいる命の不思議さなのだと思わずにいられません。

今回の事例のように「退院したい」と願っても、許可が下りなかったり、在宅医療に不安があるなど迷ったときは、在宅ホスピス緩和ケア医に相談してください。
日本在宅ホスピス協会のホームページでは「末期がん患者の在宅ケアデータベースとして、全国各地の診療所を載せています。