死ぬ前に磯釣りに行きたい

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

2016年7月、林さん(77歳 男性)の奥さんと息子さん、娘さんの3人が相談外来に来て言いました。
「夫は白血病です。入院は嫌だというので、輸血のたびに20㎞離れた病院まで通っていますが、疲れてしまいました。家で輸血をしてもらえませんか?」
そこで林さんの自宅へ輸血に行くと、痛みや呼吸困難の訴えもあったので、在宅ホスピス緩和ケアを開始することにしました。
輸血後は、散歩に行けるくらい元気になりますが、2週間ほどでまた輸血が必要になるのです。

そんな状態を繰り返していたある日、家族団らんをしているときに、林さんが
「どうせ死ぬのなら、死ぬ前に息子と磯釣りに行きたい。小浜に行きたい」
と言い出したのです。
岐阜から福井の小浜までは150㎞もあります。
同居していない家族は
「そんなに遠くまで行って死んだらどうするの。船なんて・・」
と心配して反対します。
しかし奥さんは違いました。
「妻としては長く生きてほしいけど、夫が好きなことをして、好きなように人生を過ごしてくれるならそれでいいわ。仕方がないもんね」
と、小浜行きに賛成したのです。