思った以上に病院は緊張する空間

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

のみとダニにかまれ、皮膚には大きな潰瘍ができてしまった松尾さん。
毎日通っていた訪問看護師は、私にこんなことを言いに来ました。
「松尾さんはこのままではあまりにもかわいそうです。暖かくなるまでの1か月だけでも、清潔で暖かい病院に入院してもらおうと、みんなで話し合いました。先生、反対しないでください」
「松尾さんが納得するなら、反対しないよ」
私がそう答えると、訪問看護師は松尾さんに話をしに行きました。
すると、あんなに入院を拒否していた松尾さんが、訪問看護師の説得には素直に応じて入院したのです。

しかし、入院して3日後、松尾さんは亡くなってしまいました。
松尾さんにとって、病院という環境は想像以上に緊張する空間だったため、タコツボ症候群になったものと思われます。

松尾さんの事例は、今でも悔やまれてなりません。
でも、私以上に訪問看護師のショックと後悔は大きかったと思います。
医療従事者は患者さんのために最善だと思う医療・ケアを選択しています。
でも時に、それが裏目に出ることもあるのです。