ホスピスに医者はいらない

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

2008年4月、大島みのりさん(60歳 女性 胆管がん)は小笠原内科の在宅ホスピス緩和ケアを受けていました。
大島さんはいつ亡くなってもおかしくない状態でしたが、その時期、私はベルリンで開催される学会への出席のため、ヨーロッパに2週間行くことになっていました。

出発前、大島さんは名残惜しそうに言います。
「先生がヨーロッパに行っている間、私は持ちませんよね」
「そうだねえ。2週間は長いからねえ」
「そうですよね。先生、これが最後のお別れね」
こんな会話をかわし、私はヨーロッパへ旅立ちました。

ドイツに着くと、まず有名なホスピスへ視察に行きました。
そこは木々に囲まれ、落ち着いた3階建ての白い建物です。
患者さんたちはとても穏やかな顔で、ご家族と日向ぼっこをしていました。
帰る前に「ドクターに挨拶を」と案内してくれた看護師に言うと
「えっ、がんの患者さんを看取るのに医師が必要なんですか?」と言われました。
「そうですよね。医師はいなくてもいいですよね。でもモルヒネは?」
「近所のお医者さんから”事前約束指示”をもらっておけばいいんですよ」
「そうだよね。必要になると思われる薬を、前もって処方してもらうんだね」
「ええ、そうすれば、あとは看護師がやればいいことですから」