家族の気持ちを汲む

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

娘の私があと10分早く着いたら、お父さんの死に目に会えたのに・・・。
娘さんが新幹線の始発で帰ってくることを知っていた私は、訪問看護師に電話をしました。
「先生、どうしましょう。娘さんが泣き崩れています」
と訪問看護師が言うので、娘さんと電話を代わってもらいこう伝えました。
「お父さんは、あなたが来るのを待っていたけれど、待ち焦がれて駅まで迎えに行ったんだと思うよ。お父さんが亡くなった時にその場にいなかったからといって、そんなに悲しむことはないんだよ。あなたが一言でも”一人暮らしなんてダメ”と言って入院させていたら、お父さんは最期まで家で暮らすことはできなかったんだからね。あなたから頼まれた叔母さんが看取ってくれて、最期まで笑顔だったよと言っているんだから、お父さんの願いは叶ったんだよ。悲しむんじゃなくて”よかった”と思ってくださいね」
「そう言われてみれば父に”入院しなくてもいいの?”と聞いても、”この家に最期までいたい”と強くいっていました。だから一人で亡くなったとしても、この家に最期までいることが父の願いなんだからと覚悟していました。でも新幹線の駅に着いた頃に亡くなったと聞いたら、”あと10分早ければ”と思って涙が流れてしまいました」

電話を切った私は、清水医師に電話を掛けました。
「清水先生、お疲れ様。あと10分待って居てあげればよかったね」
「すみません。実のお姉さんもいたし、そこまで気が回りませんでした。午前中の外来もあると思って帰ってしまったけど、よくよく考えると、あと10分待って居てあげればよかったと思いました。家族の気持ちを汲むということが、在宅ホスピス緩和ケアではとても大切なんですね」