お父さん・・・

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

亡くなる前日、木村さんは血圧が下がり、とうとう動くことができなくなったので、清水医師が娘さんに電話をしました。
「お父様がそろそろ亡くなりそうです」
「そうですか。私は 今日いけないので、明日の朝、始発の新幹線で向かいます。今夜は、父の姉である叔母に泊まってもらえるように頼んでみます」という返事でした。

翌朝、5:30 訪問看護師が「木村さんの姉から呼吸が止まりそうだ」と連絡を受ける。
6:00 清水医師が、緊急往診に行く。
6:30 往診を終えた清水医師は、木村さんの呼吸が止まりそうなことを確認し、「娘さん、間に合うかな?」と気にしながら帰る。
7:30 清水医師は訪問看護師から呼吸が止まったと連絡を受ける。
8:00~ 清水医師が往診に行き、心肺停止を確認。死亡時刻を木村さんの姉と訪問看護師に伝え、木村さんの自宅を後にする。

その7分後でした。
娘さんが到着したのです。
娘さんは父を見るなり
「お父さん! 私があと10分早かったら・・・お父さん、ごめんね、お父さん」
とその場で泣き崩れてしまいました。