安心したら気分もよくなって

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

小笠原内科の近くにアパートを見つけ契約した谷さん。
ところが「先生、アパートを借りたら安心できました。気分もよくなったので、引っ越しは延期して、このまま緩和ケア外来でお願いできますか?」
と、今まで通り、自宅から1時間かけて緩和ケア外来に通院していました。
月に1度、ゾメタの点滴や薬の処方、心のケアを受けた谷さんは
「先生、痛みって消えちゃうんですね」と笑顔になったのです。
こうして1年5か月が経った頃、谷さんがこんなことを言い出しました。

「実は前から鼠経ヘルニアがあったけれど、がんで死ぬと思っていたから放置していたんです。でも元気になっちゃったし、手術しようかな」
「そうなの。手術してもいいんじゃない」
そこで谷さんは名古屋の病院に手術をするために入院しました。
ところが手術の後、胃がむかむかしてお腹が痛みます。
胃カメラを撮ると、何とステージ4の進行性スキルス胃がんが見つかったのです。
谷さんは驚きながらも入院はせず、小笠原内科の緩和ケア外来に通院していましたが、3か月たったある日
「先生、ご飯も食べられなくなったし、腹水でお腹も目立つし、痛みもあります。小笠原内科に通うのも大変だから、在宅ホスピス緩和ケアに切り替えてもいいかしら。アパートに引っ越すので往診してもらえますか?」

それから1か月が過ぎたころ、谷さんがこんなことを聞くのです。
「先生、私はあとどれくらい生きられますか?」
「そうだねえ。急激に悪くなっているから3か月は難しいかしれないね」
「わかりました。私が死んだあと、兄に迷惑をかけたくありません。すぐにでもNPO法人と弁護士さんに死後の段取りをお願いしようと思います」