奇跡

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

テレビ放送を生きがいにしていたので、それから急に体調が悪くなってしまいました。
お腹もパンパンに膨らみ、「今度こそもう駄目だ」と覚悟をした7月29日のことでした。
またもディレクターからこんな電話が来たのです。
「小笠原先生、先日の花田さんのテレビの評判がとても良かったので、8月29日と9月5日に再放送が決まりました。花田さんに教えてあげてください」
私はすぐに花田さんに知らせに行きました。
ところが当の花田さんは、
「先生、このお腹じゃお盆まで生きるのも無理ですよ」
と無念そうに言うので、
「じゃあ僕が代わりに観てあげるね」
と言ったのですが・・・

1週間後、訪問診療に行った副院長が飛んで帰ってきました。
「先生、医学ではありえない奇跡が起きています! 花田さんのお腹にあるガンのゴリゴリが消えて、腹水も少なくなっているんです」
「そんなバカな」と思いながら見に行くと、本当にお腹が小さくなっていました。
「何があったの?」
「私、テレビを観ることに決めたの」
なんと、その強い想いが医学では考えられない奇跡を起こしたのです。

人というのは、とても強い大きなパワーを持っています。
でも失望や絶望の中にいると、それは負のパワーとなり、生きる気力、体力をすべて奪い、その結果ADLをも向上させ、驚くほどの延命効果をもたらすことがあるのです。