入院しなければ・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「病院では味噌汁禁止、でも家なら飲んでもいいよ」、この会話には続きがあります。
「ただし、味噌汁を飲むならあくび体操をしてください。両手をあげて”あ~あ”と声を出し、あくびをしながら手を下す、あくび体操をするんです」
これにはちゃんと理由があります。

久保さんは入院中、「あなたは心臓が悪い」と言われ、常に緊張していました。
心不全の患者さんに必要なのは、リラックスして過度に収縮している血管を拡張させ、心臓の負担を減らすことです。
緊張しているときは血管が収縮し、血圧も上昇します。
そうなると心臓に負担がかかり、心不全が増悪します。
逆に欠伸をするとリラックスします。
リラックスすると血管は拡張します。
つまりあくび体操は、心不全の患者さんにとって、有効な血管拡張療法なのです。

久保さんは入院中には胸の82%もあった心臓が、在宅ホスピス緩和ケアとあくび体操を行った結果、3年でなんと54%にまで小さくなっていたのです。

退院後10年間、一度も入院することなく、味噌汁を飲んで笑顔で過ごしていた久保さんでしたが、ある時、熱と咳が出て気管支炎になりました。
「お父さんは心臓が悪いんだから、入院してちゃんと治してね」
娘に言われると父親は弱いですよね。
嫁いだ娘に言われて、久保さんは入院してしまいました。
入院するということは、久保さんにとって一番よくない緊張空間に戻るということです。
入院した久保さんは、”緊張しまくり症候群”となり、1か月で亡くなりました。