余命3か月、海外旅行を実現

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

緩和ケアによって痛みが取れたこと、「旅行に行くぞ!」という期待と希望によって、美樹さんのADLはどんどん向上していきました。
仮に旅行に行こうという夢が叶わなかったとしても、希望の中で旅立てたなら、それは希望死なのではないかと私は思います。

訪問診療に行くと、旅先に選んだ韓国の話で盛り上がりました。
「以前、母とソウルに行ったから、今度もソウルに行こうと思っています。楽しみだなあ。早くいきたいなあ。でも、麻薬を持っていて税関通れるのかなあ」
「書類を提出すれば大丈夫だよ。医療用麻薬だっていうこととと、何錠持っているのかが分かるように英語で書いておくから、困ったらそれを見せればいいよ」
「急に痛くなったり、苦しくなったらどうしよう?」
「紹介状を書いておくから、安心して病院に行けばいいよ。何かあったら僕にすぐに電話してくれればいいからね」
「韓国で死ぬことはない?」
「死ぬときはどこにいても死ぬもんだからね。でも希望の中で生きている人は、なかなか死なないみたいだよ。大丈夫。楽しんでおいで」

そして、在宅ホスピス緩和ケアを開始してから約1か月後、美樹さんはとうとう海外旅行を実現させました。
念願の海外旅行を満喫し、無事に帰国した美樹さんからの一番の土産は「楽しかった!」という満面の笑みでした。
それから3か月後、美樹さんは穏やかに旅立たれました。