余命宣告後、海外旅行に・・

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

「もう一度海外旅行に行きたい」
こんな願いを話してくれた美樹さん。
美樹さんの母親が小笠原内科に来てくれたのは、余命宣告をされた後でした。
「先生、がんで入院している娘が、余命3か月と言われました。でも、死ぬ前にどうしても海外旅行に行きたいというんです。痛くて座ることもできないのに、旅行なんて無理ですよね」
「いや、そんなことはないと思いますよ。このまま入院していれば無理かもしれませんが、退院すれば行ける可能性はありますよ」

余命3か月で座ることもできないのに、海外旅行なんて不可能でしょうと思われた方が多いかもしれません。
でも、そうでないのです。
入院していると外出許可が下りないから行くことができないだけで、体力や余命の問題ではありません。
「退院すれば元気になるかもしれないから、思い切って退院してみるのもいいかもしれませんよ。緊急退院もできますから、いつでもご相談ください」

その後、美樹さんと母親が出した結論は、最後の願いをかなえるために退院するというものでした。

退院後、小笠原内科での在宅ホスピス緩和ケアを開始した時、美樹さんの日常生活動作(ADL)はかなり低下していました。
海外旅行に行くという美樹さんの願いをかなえるためには、まずADLを向上させることが必須です。
そこで痛みをとるために、抗炎症作用の強い副腎皮質ホルモンのソル・メドロールを毎日注射しました。
さらに3種類の医療用麻薬(モルヒネ・オキシコドン・フェンタニル)の単独使用や併用使用、訪問看護師によるマッサージや心のケアなどを行うと、しだいに痛みが取れてきました。