「がんでよかった」

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「がんでよかった」
これは末期がんの遠藤さん(62歳)の言葉です。
「がんは死ぬ病気」というイメージがあり、がんになると、精神的なダメージがとても大きいのです。
それにもかかわらず、遠藤さんはなぜ「がんでよかった」と言ったのでしょうか。

遠藤さんは大腸と食道にがんが見つかり、肝臓にも転移していました。
「入院して抗がん剤を使いましょう」という医師に対し、遠藤さんは尋ねました。
「先生、抗がん剤で治りますか? 治りませんか?」
医師は何も答えません。
「先生、抗がん剤を使えば治るのか治らないのか、はっきり言ってください」
何回も何回もしつこく問うと、医師はようやくこう言いました。
「治りません。抗がん剤を使っても、1~2か月の延命でしょう」
「抗がん剤を使っても、たった1~2か月しか延びびないのですか?」
「そうです」
「先生、抗がん剤を使いながら仕事はできますか? 副作用はありますか?」
「入院して抗がん剤を使うので仕事は無理かもしれません。吐き気や嘔吐の副作用のほかに、食事もできなくなりますが、点滴をするので安心してください。ただ、白血球や血小板が極端に減った場合は、1か月で亡くなることもあります」
それを聞いた遠藤さんは、抗がん剤を使わず、自宅で過ごすことを選びました。
理由は「仕事がしたいから」でした。