モルヒネを飲み忘れ・・・

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

病院は、医療従事者が大勢いるという安心感があります。
でも、患者さん1人一人に寄り添う時間もないほど忙しいのが現状です。
だから人は大勢いるのに孤独感を生み、自然と免疫力も低下するのかもしれません。

反対に、在宅ホスピス緩和ケアなら、自分が望む終の棲家で、痛みや苦しみを取りながら心のケアを受け、笑顔で朗らかに暮らすことができます。
だからこそ在宅ホスピス緩和ケアがうまくいくと、自然にQOL(生活の質)が向上し、朗らかに生きるエネルギーに変わるのでしょう。

喫茶店に行けるまでになった安藤さんですが、がんが治ったわけではありません。
退院して1年が過ぎると、骨や膀胱にがんが転移して痛みが出てきました。
がんの患者さんに「病気で一番つらいことは何ですか?」と尋ねたら、間違いなく「痛み」が上位に来るでしょう。
モルヒネは、痛みや苦しみを取ってくれるだけではなく、上手に使うと延命効果もあります。

安藤さんには、飲むモルヒネを処方してきましたが、痛みが取れてくると自分が病気だと忘れてしまうのか、治ったと判断するのか、モルヒネを飲み忘れることが出てきたのです。
そうすると当然のことながら痛みが再発してきます。
痛みが取れてきたことで、寝る前にモルヒネを飲み忘れることが増えた安藤さん。
その結果、深夜に痛みが出て「痛い、痛い」と訴える安藤さんに、薬の飲み忘れが原因だとはわからない息子さんは言いました。
「おふくろ、そんなに痛いなら入院しろ」

入院した安藤さんは1か月後亡くなってしまいました。
孤独死だったのではないかと思うと、悔やまれてなりません。