ガンでよかった

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

小笠原内科では、お別れの時期が近付くと、訪問看護師が患者さんのご家族に「お別れパンフ」を渡し、お別れに向けての説明をします。
「お別れパンフ」には、お別れに向けてのの注意事項が書かれています。
ご家族は「最期まで家にいたい」という患者さんの願いを叶えてあげたいという想いで支えていますが、ほとんどの方は家で看取りが初めてです。
患者さんが元気なうちはいいのですが、死ぬ直前になって少し様子がおかしくなると、どうしたらいいかわからずパニックになり、救急車を呼んでしまうご家族が少なくありません。
急いで救急車を呼んで、死ぬ前に救急車が到着してしまった場合、何が起こると思いますか。
悲劇です。
患者さんは救命措置をされ、死ぬことを許されず、延命措置をされるのです。
そんな悲劇を起こさせないためには、患者さんの身にこれからどんなことが起こるのかをあらかじめ想定しておくことが大事です。
そのため「お別れパンフ」には、これから患者さんになにが起こるのか、お別れの前にしておくこと、してはいけないことなどを書いています。

旅立ちの2日前、遠藤さんは私にこんなことを言いました。
「死ぬのは怖くないですよ。怖いのは不安があるからでしょう。不安はありません。幸せですよ。充実しているから。上手な死に方っていうのはおかしいけれど、上手な生き方っていうのかな。がんは案外、いいものですね」
そして2日後、遠藤さんは家族に見守られ穏やかに旅立たれました。

効果がある抗がん剤なら、もちろん使った方がいいでしょう。
しかし遠藤さんは、1か月しか延命できない抗がん剤治療より仕事を選び、仕事を全うした充実感と自宅にいられる満足感の中で、7か月間も笑顔で過ごし、「死に方の質」の高い希望死、満足死、納得死をされたと思います。