ところ定まればこころ定まる

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄

伊藤さんが亡くなった後、ご家族の前で前述のポエムを読み上げると、ご長男が私にこう尋ねました。
「小笠原内科の理念は、”人間は必ず死ぬものだ。在宅緩和ケアで安らか大らかは当たり前。さらに朗らかに生かされ、最期は在宅ホスピスで清らかに旅立ちたい”ですよね。母はいつも極楽にいるようだと言っていました。母は、仏様と同じように清らかな気持ちになって、悟りを得たんでしょうか?」
「そうですねぇ。悟りを得る、極楽にいる気持ちというのは、鳥がさえずったり、きれいなお花が咲いているところにいる、嘘をついたり人を妬んだり、そんな煩悩がない、仏様のような清らかな心になれるところにいるということなんでしょうねぇ。お母様は観音菩薩のようになられたのではないでしょうか」
私が答えると、ご長男はにこっとしながら言いました。
「ありがとうございます」

ここにいたいと願うところにいられれば心が定まり、極楽にいるような心境になれる。
それが「ところ定まればこころ定まる」なのです。
そして、そのような想いになれた瞬間から、我がいのちは仏様と同じ清らかなところ、極楽が報土と化したところに存在し、今が一番幸せと思いながら穏やかに生きて、死ねるのではないでしょうか。