ああ、いい人生だったと思いながら逝きたい

私はガンで死にたい 小野寺時夫

ガン末期に身体的に苦しみ続けた人は、苦痛が顔に染みついているように見えます。

手術や抗がん剤治療を受けすぎた人。
痛みや呼吸苦などの緩和が十分でなく、苦しみ続けた人。
点滴輸液や胃ろうによる延命治療を長期間受けた人。
一方、延命治療を受けすぎた患者さんの中には、死んでホッとしているような表情に変わる人もいます。

恐ろしい死に顔の人もいます。

がん治療中に、夫が愛人をつくっていたことを知って死んでいく妻。
夫に早死にされ、女手ひとつで育て上げ、一流企業に就職した1人息子が早々に結婚して家を離れ、ガン末期になっても見舞いにも来てもらえない母親。
年下の夫が自分の死後に再婚するのではないかと疑心暗鬼になりながら死んでいく比較的若年の妻。

認知症がなく、ゆっくりした自然の経過で死に至る人には、間もなく死ぬことを自覚する人が多く、死の3日から1週間前に、家族や私たち医療スタッフに最期の話や挨拶をする人がいます。
私も、死に近づいた患者さんや家族からお礼や感謝の言葉をいただくことがしばしばあります。
これが、老骨でありながら私がホスピスの勤務をやめられないでいる理由の一つなのです。