赤塚不二夫さんの場合

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

赤塚不二夫さんは、晩年は脳内出血から寝たきりになり、2008年に肺がんで亡くなりましたが、食道がんでもありました。
ただし、手術は受けていません。
1997年、食道がんと診断された赤塚さんは、98年3月に記者会見を開き、食道がんであることを発表しました。
その時のウイスキーの水割りを飲みながらのコメントは、以下のようなものでした。

「医者はすぐ手術しないとだめだというんだよ。どんな手術をするのか聞いたら、食道を取って腸とつなげるらしんだけど、それじゃ、口からうんこが出てきちゃうじゃないかって医者に言ったんだ。しかも、手術したら最低でも2~3か月は寝っぱなしになるって言うから、それじゃあ困るって退院してきちゃった。そんなの死んだも同然だからね。どうせ死ぬなら、仕事しながら死んだ方がましだよ」

口から排泄物は出ないにしても、吐いたものが間違って気管に入ることはあるわけですし、手術すればQOLがガクンと下がって、仕事どころじゃなくなってしまう。
鋭いというか、あっぱれというか、度胸があるというか。
進行がんだと診断されて、こんな風に言える人は本当に少ないんです。
驚き、悲嘆にくれ、オロオロして医者の言うなりになってしまうのが当たり前。
気がついたら手術することになっていた、というのが普通です。

その後、赤塚さんは1か月余り入院して、食事療法と、計30回の放射線治療を受けました。
その結果、がんの広まりが止まったということで、退院後は仕事を続行。
お酒も飲み続けたそうです。
しかし、残念ながら2002年に脳内出血を起こし、緊急手術を受けたものの寝たきりになりました。
とはいえ、がん診断から10年間生きることができました。