緊急退院

なんとめでたいご臨終 小笠原文雄 

その後、一進一退の入院生活は5か月にも及びました。
12月に入ると嘔吐や傷みがひどくなり、急速に弱ってきた岡さんはついに
「ここにいるのは嫌だ。家に帰りたい」と訴えました。
12月22日、岡さんのご主人が自身のかかりつけ医である私の相談に来ました。
「妻が急激に悪化しています。でも、家に帰りたいと願っています」
「分かりました。緊急退院させてあげましょう」
「でも、こんなひどい状態で帰ってこられますか?」
「今のままで助かるの?」
「いえ、もうすぐ死ぬんです。あの病院で死なせたくはない」
「退院をためらっていたら病院で死んでしまうよ」
私がそういうと、3時間後、岡さんは緊急退院しました。

すぐに在宅ホスピス緩和ケアを開始すると嘔吐はなくなり、痛みも取れ、笑顔になった岡さん。
そんな妻を見てご主人も笑顔です。しかし、その笑顔にはどこか影がありました。