緊急退院すると

なんとめでたいご臨終 小笠原 文雄

15年ほど前のある日、本多さん(78歳 女性 胃がん 余命数日)の息子夫婦が相談外来でこう言いました。
「先生、入院している母が痛みで苦しみ、食事もできず歩けません。病院の先生には”いつ死ぬかわかりません”と言われました。でも母は家に帰りたがっているんです。退院させたいので、何とかしてください」
そこで私と訪問看護師が本多さんの入院先の病院で、退院共同指導を行うと、本多さんは緊急退院できました。

すぐにソル・メドロールを使い、モルヒネを増量して在宅ホスピス緩和ケアを行うと、5日後の訪問治療で満面笑みの本多さん。
「小笠原先生、ご飯を食べられるようになったんです。それに、美容院にも連れて行ってもらったんですよ。うれしいです」
息子夫婦も大喜びです。

ところが2週間後、本多さんは突然寝たきりになります。
そこで私は、本多さんの自宅に集まっていた大勢の親族の前でご家族に伝えました。
「もうそろそろお別れですよ」
すると、これまで会ったことのない親族が、こんなことを言い出しました。