米長邦夫さんの場合

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

将棋棋士の米長邦夫さんも、前立腺がんで亡くなりました。
2012年12月18日、69歳でした。
2007年の検査で、米長さんはPSAが4.40と出ました。
4,0が基準値ですがら、ほんのちょっと高いわけです。
1年後、08年の検査では、それが7.26になりました。
自覚症状はありませんでしたが、詳しく検査しないといけないということで、前立腺の組織を少し取って顕微鏡で見る「生検」が行われました。
結果は残念ながら黒。
ただし、転移はありませんでした。

前立腺がんは、最初の段階で転移がなければ、あとから転移が見つかることはまずありません。
がんもどきだと、この段階でほぼ確定できるわけです。

しかし医者は、前立腺全摘術を勧めました。
前立腺をすべて切り取るということですが、これには米長さんが反対しました。
前立腺を取ってしまうと、性的な機能が失われてしまうからです。
そして放射線を選びました。
がんもどきの可能性が高いのですから、切ったりしなくて本当に良かったと僕は思います。
米長さんは、その年の秋から冬にかけて、ホルモン剤と放射線で治療を受けました。
その結果、PSAは1.0以下にまで下がり、治療は終わり。
あとは定期的に検査をすればいいことになりました。

米長さんは、こうした自分の症状をブログに書いていましたし、それをまとめた著書も出しています。
ただ、がんが再発したことを公表していますから、大量の抗がん剤を投与されたことは、ほぼ間違いないでしょう。
亡くなる2か月前の10月5日、羽生善治棋聖就位式に現れた米長さんは、髪の毛が抜けてやせ衰え、69歳とは思えない姿でした。