死に対して医療は無力

寿命が尽きる2年前 日下部羊

私は若いころは外科医として、ガンの患者さんを何人も看取り、施設や自宅で亡くなる高齢者を看取ってきました。
中には上手な最期を迎えた人もいますが、大半の人は「ニッコリ笑ってこの世を去る」という具合にはいきませんでした。
理由はみんな同じ、まだ死にたくないと思っていたからです。

死にたくない人は、死が迫ったとき、必ずといっていいほど医療に頼ります。
これがまず第一の誤りです。
治る病気のときは医療に頼ればいいのですが、治らない病気を無理に治そうとすると、いたずらに苦しみを深めます。
死に対しては、医療は無力だからです。

私も、できるだけ患者さんを救おうと努力しました。
しかし、どう頑張ったって、患者さんは死ぬときは死にます。
それを押しとどめようと無理して、患者さんを余計な苦しみを負わせたことも少なくありません。
救えない患者さんはどうやったって救えない。
医療を妄信して、あらゆる手段を講じるような医者の方が、患者さんを苦しめる結果になっていました。