欧米では肺がん健診は行われていない

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

欧米でもがん検診は行われています。
けれども、日本のように健診を強制することはありません。
例えば肺がん健診。
欧米では、肺がんによる死亡者数が増えたため、健診を導入すべきではないかという議論が起こりました。
そこで、まずは肺がん健診の効果を調べようと、いくつかの国で比較試験が行われました。
ヘビースモーカーを、くじ引きで検診する人々としない人々に分けて、それぞれのグループの死亡者数を調べ比較したのです。

当然、健診する人々が早期発見、早期治療されるわけで、死亡者数が少ないと予測されました。
ところが、結果はまったくの予想外。
検診した人々の方が、わずかに死亡者数が多かったのです。
つまり、健診に効果はなかったわけです。
同様の結果がほかの国でも出たため、欧米では肺がん健診は導入されませんでした。

一方日本では、1987年に肺がん健診を実施することが決まりました。
欧米で「肺がん検診は役に立たない」という試験結果が出たのが1986年のことですから、その1年後です。
肺がん検診に意味はないと分かっていながら、日本では導入されたのです。
また胃がん健診も、欧米では行われていません。

厚労省は「医療費がかかりすぎている」「医療費を節約しよう」「保険料の負担割合を引き上げる」など、耳にタコができるほど言い続けているのに、なぜ無駄な健診をやめようとしないのでしょうか。
それは、自分の縄張りに入ってくるお金が増えるからです。
自分たちの業界が潤うし、大きなパイを持つ省庁は大きな顔ができます。