時間と空間を共有するだけでも価値はある

明日この世を去るとしても今日の花に水をあげなさい 樋野興夫

長年連れ添ってきた妻がガンで入院。
これまで妻をあごで使ってきた 夫は、妻の体調を気遣うものの、いたわりの言葉やさしい言葉がかけられない。
夫はそのことに苦しみ、「先生、どうしたらいいでしょう?」と私に相談を持ち掛けてきました。
私は答えました。
「何も言わなくてもいい。ただ黙って奥さんの傍についていてあげなさい。今はそれだけで十分です」
夫は黙ってうなずきました。
私たちのやり取りを近くで見ていた奥さんは何も言わずに大粒の涙を流しました。
何かやらなければいけないことは分かっているのに、何をして良いのか分からない。
こうした方がいいと分かっているのに、ためらう気持ちがあってなかなか踏み切れない。
長年、一緒に暮らしてきた夫婦だからできないこともあるでしょう。
そのような時は、何も言わずに黙ってそばについてあげればいい。

時間と空間を共有するだけでも価値のあることです。
困っている人には、それだけでも十分ありがたいことなのです。