救急車を呼ばないで

なんとめでたいご臨終 小笠原 文雄

「救急車を呼ばないで!!」「最期まで家にいたい」「家で死にたい」と願っている患者さんは、急変したときに心の中でこう叫んでいるかもしれません。
なぜなら病院は、運ばれてきた患者さんを何としても助けようとします。
死なせてはいけないからです。
例えば、心臓マッサージをろっ骨が折れてもそのまま続け、人工呼吸器をつけて呼吸を続けさせます。

大切な人の最期の望みを叶えるためには、勇気と思いやりの心をもって、救急車を呼ばないでほしい。
今回はそんな願いを込めて、ALSの患者さんの事例をお伝えします。

ALSは原因不明の神経難病で、進行すると手足が動かなくなり、話せなくなり、最終的には呼吸ができなくなります。
その時、自然の流れに任せて死を受け入れるか、人工呼吸器をつけて延命するかの選択を迫られることになります。

宮田さん(70歳 男性)は前者を選択しました。
そこで私は宮田さんご夫婦に
「苦しくしないようにするからね。死ぬ前に炭酸ガスがたまって、意識がもうろうとするかもしれないけれど、お迎え現象だと思ってくださいね。でも苦しくないから大丈夫ですよ」

しかし、旅立ちの時が近づいてきたその時でした。
駆け付けた息子さんが救急車を呼んでしまったのです。