抗がん剤問題

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

僕は1979年に米国に留学しました。
米国留学では、舌がん、子宮頸がん、食道がんなど、日本だと手術されてしまう臓器がんに対する放射線治療が盛ん、患者全員にがん告知が行われている、乳がんで乳房温存療法が行われ始めている、などを知りました。

抗がん剤問題にも取り組みました。
胃がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんなど、がんが塊をつくる「固形ガン」は、抗がん剤では治らず、延命効果もないのですが、日本の医者たちはこのことを認識せず、安易に多用していたのです。
抗がん剤というのだから、何がしかメリットがあるだろう程度の認識だったのでしょう。

慶応病院の放射線科も同じで、先輩医師や同僚たちは、入院中の末期がん患者によく抗がん剤を点滴していました。
がん「無告知」時代のことですから「栄養剤」です程度の説明だったのですが、患者たちは抗がん剤だと知っていたはずで、拒む人はいませんでした。
ところが点滴を打つと、多くが苦しむように身悶えし、消えるように亡くなっていきました。
今考えれば、抗がん剤の毒性で命を縮めていたのです。
しかし不思議なことに、医者たちは決して、それを抗がん剤のせいだと認めようとしなかった。
僕自身は固形ガンに抗がん剤を処方したことはなく、傍らで見ていただけですが、最初は事態が飲み込めませんでした。
しかしそのうちに、患者たちが死ぬのは抗がん剤のせいだとはっきり気づき、欧米での臨床試験で延命効果が示されていないと知ったこともあり、抗がん剤排斥の気持ちが芽生えました。