憔悴して、やっと抗がん剤をやめる決心が

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

「緩和ケアだけで長生きできますよ」そう話しましたが、野口さんはその後も疲れた様子で緩和ケア外来にやってきます。
「ちゃんと寝てますか? 眉間にしわが寄っていますよ。お疲れでしょう」
と私が尋ねると、野口さんはため息をつきながら
「そうなんだわ。疲れてるんだわ。精神的にも追い詰められているんだけど、それでも抗がん剤をやめる決心がつかないんだよ」

そんな話を繰り返しながら、緩和ケア外来に通い始めて5か月後の12月、野口さんは憔悴して通院ができなくなり、とうとう抗がん剤をやめて在宅ホスピス緩和ケアに切り替える決心をしました。
その際、奥さんはこんな不安をもらしました。
「先生、私、介護は何もできないんです」
「奥さんは介護しなくて大丈夫。おはよう、おやすみ、あとは電話番だけでいいんです。在宅ホスピス緩和ケアなら笑顔で長生き、ピンピンコロリですからね」

在宅ホスピス緩和ケアに切り替えてから1か月半後の1月末のことでした。
いよいよお別れの時が近づきました。
22日 伝い歩きになる。
23日 這いずりになる。
24日 寝たきりになる。