心の隙間に光よ届け

明日この世を去るとしても今日の花に水をあげなさい 樋野興夫

死はどんな人にも確実に訪れます。
だからといって、いつ訪れるかわからない死におびえて生きることはありません。
「いつか死ぬ」ことを覚えておくぐらいで十分です。
全力を尽くして、あとのことは心の中でそっと心配しておけばいいんです。

がん哲学外来では、患者さんに笑顔で帰ってもらうことをい最善としています。
涙を流しながらやってきたとしても、帰るときは笑顔になっている、患者さんが求めているのはこれです。
カウンセリングとの違いを問われることがあります。
カウンセリングは相手の話に耳を傾ける傾聴です。
一方、がん哲学外来の面談は人と人との対話です。
人に悩みを聞いてもらうことで、気分はすっきりします。
親しい友人に愚痴を聞いてもらって、すっきりした経験は誰にでもあるでしょう。
ところが、それは一時的なことにすぎません。
しばらくすると悩みやうっぷんは又たまっていきます。
カウンセリングだけでは心が満たされない人たちがいます。

面談に来られる人の中には、何を相談してよいのかわからない人が多くいます。
「とりあえず来た」という人がほとんどです。
悩みごとを打ち明けられる人は、まだ心が落ち着いています。
ですから、開口一番「今日はどうしましたか?」と問いかけはしません。
まずお茶を出して世間話をします。
「今日はどちらから来られましたか?」
「がん哲学外来はどこで知りましたか?」
1時間の面談でしたら、最初の15分から20分は世間話をします。
すると頭の中が」整理されていくのでしょう、何のためにここに来たのかを少しずつ語り始めます。
これが20分くらいで、そのあとに1対1の対話が始まります。
患者対医者の関係ではありません。
対話の中で相手の心の隙間を見つけ出します。
そして、その隙間に光を差すような言葉を、選び出します。