小さい子供に真実を話す

なんとめでたいご臨終 小笠原 文雄

そして、吉永さんへの初診の日、今後の治療方針や在宅ホスピス緩和ケアでの支え方などを話している時でした。
吉永さんがこう言ったのです。
「歩けなくなったら入院します」
「どうして? 在宅ホスピス緩和ケアなら痛みもなく最期まで家にいられますよ。それにお子さんと一緒でうれしいでしょう? ずっと家にいたいんじゃないの?」
私が驚いて聞き返すと、硬い表情のまま吉永さんはこう言います。
「家に帰れてうれしいです。でも、歩けなくなったら入院します」

実は、永さんの奥さんは、自宅から20キロ離れた職場まで毎日車で通い、必死で働いて中1の長男と小5の長女の2人の子供を育てていました。
そんな忙しい中でも、”家に帰りたい”という夫の願いを叶えるため、夫の介護もがんばるつもりでいました。
その想いを吉永さんは分かっていたのです。

「そういえば、お子さんに話はされましたか?」
「子供たちはまだ小さいんです。末期がんだなんて言えません・・」
「そうですか。でも、話されたほうがいいと思いますよ。もし心配でしたら、私たちから話しましょうか。話した後の心のケアも必要ですから」