寿命が尽きる2年前には

寿命が尽きる2年前 久坂部羊

江戸時代や明治時代には、ふつうの人が家でさほど苦しまずに亡くなっていたのに、医療が発達したせいで、病院で悲惨な延命治療が行われるようになったのはおかしなことです。
そんな現代医療に頼っているかぎり、死から自立することはできません。
理性を強め人間として成熟すれば、寿命が尽きる2年前には、もう自分を解放してもいいでしょう。
不安や心配から自由になり、死におびえることもなく、長生きのための努力も辛抱も遠慮もいらない。
ほんとうに自分がやりたかったことができるのが、寿命が尽きる2年前です。
考えようによっては、人生の中でもっとも自由で自立した時間と言えるかもしれません。

それがいつか分からないから困るんだという人には、こう答えましょう。
「それは今でしょ」
2年以上あれば、それだけ自由な時間が過ごせますし、2年以下だったとしても、その期間を心配や不安に過ごすことを免れたのだし、ぴったり当たっていたら、それこそ理想の2年を過ごしたことになります。

最悪なのは、死の直前まで長生きのための努力や我慢や節制を続けて、貴重な時間を無駄にすることです。
さらには、最後の最後に医療に頼って、自ら無用の苦しみを背負いこむことです。

ふつうの人の心には、死の恐怖、死にたくないという思いが、そそり立っています。
それを乗り越え、自分を解放する、すなわち死を受け入れるということは簡単ではないでしょう。
そうは言っても、死は必ず訪れるのだし、拒めば拒むほど心配と不安は増え、努力と節制と辛抱も必要になってきます。
寿命が尽きる2年前には、いずれも必要ないことですし、時間を浪費するのはもったないことです。

ふだんから死を意識して悔いのないように生きていれば、死に直面しても受け入れられるはずだと思っています。