富士氏の最期

寿命が尽きる2年前 日下部羊

医療にせよ、健康法にせよ、無理に長生きを求める行為を拒絶してきた富士氏が、どんな亡くなり方をしたのでしょうか。
夫人が腎不全で入院してから、富士氏は一人暮らしで、食生活が不規則になり、酒量も増えたそうです。
私が訪ねていくと、約束の時間なのに二日酔いで寝ていたり、酔っぱらって記憶が混乱していたりすることもありました。

私が最後に富士氏を訪ねたのは、死の5日前で、医者としては見立て違いも甚だしいですが、それまでで一番元気だなと感じました。
ですから、5日後の夕方、富士氏が亡くなったときは、思わず電話口で「えぇーっ」と叫んでしまいました。

次の日飲む約束をして、その晩に布団の中で亡くなるとは、なんと楽な、なんと羨ましい、なんと上手な死に方でしょう。
行年73歳。

これもひとえに医療から遠ざかっていたおかげでしょう。
死を怖れず、命を延ばすための面倒なことや、窮屈なことを一切せず、自由奔放に生きたが故の見事な最期だと思います。