夜間セデーション

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

不思議なもので、1つ不安がなくなると新たな不安が出てくることもあります。
緩和ケアを開始してから1か月経った頃、中田さんはこんなことを口にするようになりました。
「夜になると不安になって眠れません」
そこで1日1回の訪問看護に加え、訪問介護を毎日頼むことにしました。
隣のおばさんも朝夕2回、様子を見に来てくれました。
さらに「夜間セデーション」を開始することにしました。
セデーションとは「鎮静」という意味です。
しかし、病気の進行により、鎮静中に亡くなる可能性がないとも限りません。
そこで「夜間セデーション」を行う際には、必ず患者さんに確認します。
「眠れないと不安だよね。夜だけ眠れる森の美女になれる方法があるよ」
「なに、それ?」
「夜間セデーションといって、睡眠薬で昏睡のように眠れるんだよ。でも、がんが進行していると、寝ている間に死ぬことがあるかもしれないけれどね」
「先生、それって苦しい?」
「寝ている間に死ぬんだから苦しくないよ。朝起きてヘルパーさんが来たら冷たくなっているよ」
「へぇー、苦しまずに死ねるならいいね」
「でもね、実際には夜間セデーションをしている間に亡くなる方はほとんどいないよ。朝にはちゃんと目が覚めて、誰かがそばにいる時に旅立たれることがほとんどだよ」