在宅緩和ケアの贈り物

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

お友達が来て、土田さんはおしゃべりを楽しんだり、家族と楽しんでいましたが、その後満足死をされました。
翌朝、土田さんの家を訪問すると、ご長男が近所の方たちと葬儀の打ち合わせをしていました。
私は「ご苦労様でございます」と言いながら、お仏壇の前に横たわる土田さんの枕元へ座りました。

「ああ、いい顔をしていらっしゃいますね」
私が言うと、家族が大勢集まってきて、お嫁さんがこんな話をしてくれました。
「昨夜、修学旅行から帰ってきた息子に、おばあちゃんが遺言を言ってくれましてね。呼吸がゆっくりしてきたとき、子どもたちは”死なないで、死なないで”って、おばあちゃんをさすりながら、みんなで泣いたんです。その後、大人たちが訪問看護師さんとエンゼルケアをしようとしたら、子どもたちが”私たちがおばあちゃんを綺麗にしてあげる”と言って、代わりにエンゼルケアをしてくれたんです。おばあちゃんは、人は死ぬとだんだん冷たくなり、二度と元には戻れないということを、身をもって孫たちに教えてくれたわけですね。おばあちゃん、ありがとう、ありがとうって泣き明かしたんです」

その場にいた家族が目を赤く腫らしながらも、清々しい顔をしていました。
土田さんが退院してから36時間と短いものでしたが、死ぬという辛く悲しい出来事を笑顔に変えることができた36時間でもあったのです。
これが在宅緩和ケアの贈り物だと思います。