告知

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

”上を向いて歩こう”を3人で歌い終わり
「マコちゃん、どう? 苦しかった?」
「ううん、苦しくない。楽しいね」
「マコちゃん、、なんでかわかる?」
「わからない」
「どうして苦しくなるか知りたい?」
「先生、私一人暮らしだから、全部一人で決めなくちゃいけないんです。だから本当のことを教えてください。どうして苦しいの?」
「わかった。じゃあ本当のことを話してあげるけど、マコちゃんは一人暮らしだから、いろんな人にも聞いてもらうといいと思うよ。昔の常連さんや町内会長さん、民生委員さんにお友達、市の生活保護担当者やケアマネージャーさん、デイサービスのスタッフさんも呼んでみんなで話し合いましょうよ」

3日後、マコさんと約束した真実を話す日がやってきました。
なぜ町内会長や民生委員に声をかけたかというと、近所の人は”一人暮らしで生活保護を受けている人が救急車を呼んでいる。聞くところによるとガンみたいだ。それなのになぜ入院させないのか”と不審に思うわけです。
でも、町内住民の代表である町内会長や民生委員に知ってもらい、近隣住民に理解してもらえれば、マコさんも安心して自宅で暮らすことができるはずです。

その日の話し合いには20名ほどが集まりました。
告知は、患者さんのその後の人生を左右する大事な局面です。
告知をする医師として、私は気力・体力を充実させ、”マコさんが笑顔になるまで帰らない”と覚悟を決めて、ゆっくりと穏やかに、そしてユーモアを交えこう切り出しました。