告知 2

なんとめでたいご臨終  小笠原文雄

私は告知をするとき、患者さんの手を握ります。
それには2つの理由があります。
1つは患者さんを安心させるためです。
告知を受ける時、誰もが緊張し、不安になります。
手を握ると、不安は少し和らぐのではと思うからです。
もう1つの理由は、脈を診るためです。
手を握りながら、そっと人差し指を手首に伸ばすと、速い脈、遅い脈、乱れた脈、硬い脈、やわらかい脈、そして馬が駆け巡るような脈などを感じることができます。

これまでの経験で、告知後、脈が140くらいに上がると、私が何を話しても上の空で、記憶にも残らないことが分かりました。
その後、脈が100を下回り始めると気持ちが落ち着き、声が耳に届き、話を理解できるようになるので、脈が落ち着くのをひたすら待ちます。

しばらくすると、マコさんの脈が落ち着いてきたので、頃合いを見計らってゆっくりと話しかけました。
「マコちゃんつらいよね。夜も寝ていないもんね。不安だよねえ。だから救急車を呼んじゃうんだね。でもね、このまま不安だ不安だと言っていると免疫力が下がって早く死ぬんだよ。不安なら看護師のファンになったら?」
すると、うなだれていたマコさんが上目遣いでニタッと笑ったのです。
そこで私も微笑み返して言いました。
「マコちゃん、良く寝て心と身体を暖めて笑うと、笑顔で長生きできるよ。在宅ホスピス緩和ケアなら3割くらいの人には延命効果があるんだよ。在宅ホスピス緩和ケアをうけてみない? 痛くなったり不安になったときはモルヒネを飲めばいいし、その3割に賭けようよ。もし延命効果がなかったとしても笑顔で暮らせるよ」
真実を知り、うなだれていたマコさんでしたが、30分かけてこう言った話をしたところ、満面の笑みに変わりました。