分子標的薬

近藤先生、「がんは放置」で本当にいいんですか? 近藤誠

がん細胞も正常細胞も一緒くたに殺してしまう抗がん剤ではなく、どうにかして、がん細胞だけを殺す抗がん剤を作りたい。
そんな願いから生まれたのが「分子標的薬」です。
分子標的薬は、がん細胞の中にある特定の分子(タンパク質)に抱き着いて、その働きを妨げることでがん細胞を殺します。
そのため、正常細胞は殺さず、がん細胞だけを殺せると考えられたのです。

ところが、2002年7月に発売された分子標的薬のイレッサは、発売からわずか2年半で667人もの死者を出してしまいました。
ものすごく効いて、副作用の少ない夢の新薬と言われたのですが、全く違ったわけです。
イレッサもまた、これまでの抗がん剤と同様に、正常細胞を殺してしまったのです。
イレッサのターゲットとなる特定の分子が、がん細胞だけでなく正常細胞にもあったからです。
そのため、強い副作用が出て多くの人が亡くなってしまいました。

分子標的薬は、今ではイレッサだけでなく何十種類もあります。
そして、乳がん、肺がん、大腸がん、腎臓がんなどの治療に使われていますが、これらのがんに分子標的薬は効きません。
臨床試験でも、延命効果は証明されていません。

イレッサについてみれば、延命効果がないどころか、イレッサを使わない人の方が生存期間が長いことが分かっています。
結局、臓器がボロボロになって寿命が縮んでしまうのは、分子標的薬も従来の抗がん剤と同じなのです。